シアトル生活はじめました

20年以上すんだ東海岸から西海岸に引っ越してきました。MicrosoftのUniversal Storeで働いてます。

「がっかりしてます」でみんなが激おこの理由が分からなくて困った話

まずは自分の日本語能力を疑った

4,5日前ぐらいですかね、FBのタイムラインやネットニュースで「がっかりした」や「盛り下がる」という発言に対してかなり怒っている人達がいる、という印象を受けて、いったい何が起こってるだろうと思ったんです。

タイムラインに流れてくる情報の質・量だけではいったいなんのことか分からなくて、新聞のサイトとか読んで、ある政治家が、ある有望なアスリートが病気になったことを知って、その反応として発言した内容に批判が殺到した、という構図がなんとなく分かりました。

で、私はすごい焦りました。

「やばい、オレの日本語能力もここまで落ちてしまったのか?!って。

この「がっかり発言」がなぜ不適切なのか、なぜこのアスリートを傷つけてしまうのか、理解できないという状況になったのです。

本当に自分が「がっかり」という言葉の意味と、それがもつニュアンスと、その言葉が人にどういう感情を引き起こすのか分かっていないと思って、「・・・と言うことはだ・・、自分では大丈夫だと思って使っている言葉で他人を気づ付けている可能性が高いじゃないか?!」って思ったんです。汗がタラ~って感じですね。

何度も読んでみたんです。おそらく全文を紹介している、長めの記事を探して「全体」のコンテクストから理解しようと努めました。

そしてなるべく多くのサンプルを集めて読み進めていくうちに、「う~ん、あれ?これ主語とか目的語とかはっきりしてなくて、なんか解釈の余地があるから、不適切だと言い切れないんじゃないかな・・・」と思うようになって来たんです。(これは、4日ぐらい前だったのでホリエモンとかなんか一部の「擁護派」の意見が出て来る前です。なので、自分自身が「おかしいな・・・」って思い始めていたんです)

主語は何?

まずは「主語が無い?」って思ったんですが、よく考えると、これは明示的に表さなくても「主体=大臣」というのは分かりました。

がっかりを主語付きで表すとしたらこういうのがあるかな:

  • 私はがっかりしてます
  • お母さんはがっかりしてます
  • 王様はがっかりしましてます
  • 大臣はがっかりしましてます

ところで主語のように見えるけど主語(動作の主体)ではない言い方に

  • 今学期の成績にはがっかりしてます
  • 出てきた料理にがっかりしてます

といったパターンもあるけど、「がっかりな気分になった」のはやはり「私」という主語があります。

目的語は何?

次に、「がっかりする」って動詞は目的語を取る他動詞ではなさそうですね。「(私が)机を叩いた」みたいに「(私が)料理をがっかりした」とは言えません。なので、目的語ではなくて、こういうのはなんて言うんですかね、英語だとトピックとか言う、「~について」とか「~に」とか「~のことに」にあたる部分ですね

  • 私は今学期の成績にがっかりしてます
  • お母さんは出てきた料理にがっかりしてます
  • 王様はお姫様の病気にがっかりしてます
  • 大臣は選手の病気にがっかりしてます
  • 大臣は選手が大会に出られないことにがっかりしてます

こんな感じで「なんのこと」でがっかりしたのか、はっきりと言わない(書かない)場合は、文脈から解釈して「~のこと」についてがっかりしてるんだよね、って聞く側が判断するしかない場合が多いとおもうんです。

がっかりという言葉はいつも最低の言葉なのか?

ところで自分は「がっかり」という言葉の意味と使い方を理解してなかったのか、と焦ったんですが、ちょっと自分なりに整理してみたら、おそらくは適切な状況と不適切な状況に分かれるなと思ったんです。

不適切な例(もしくはかなりグレーゾーンで危険)

  • 私はあの選手の肌が黒いのにがっかりしてます
  • 私は彼女に髪の毛が生えていないことを知ってがっかりしてます
  • 王様は外国人が大会で優勝したことにがっかりしてます
  • 私は娘の彼氏が日本人じゃないとしってがっかりしてます
  • 私は自分にアジア人の血が混ざっていることにがっかりしてます

こういう文脈での「がっかり」はかなり良くないか「最低」と分類分けされるものですね。これらの使い方に共通していると思うのが「変えることが出来ない、または変える必要性がない、人の特徴」について「がっかり」している点です。肌の色合いは生まれ持ったもので、変えられないし、そこに優劣はないので変える必要もない。髪の毛の有無については、やはり本質的に優劣はないし、本人が選べない原因かもしれない。あと、ある特定の性質に関して優劣を断定的に決めつけて、それに関連して「がっかり」というのは自分についてだとしても不適切ですね。それはその性質を持つ他者を「劣っている」と言っているのと同じになるので。

適切な例(おそらく傷つく人はいない)

  • 私は雨で遠足が延期になってがっかりしましてます
  • 私は今学期の成績にがっかりしましてます
  • お母さんは出てきた料理の味付けが濃すぎてがっかりしてます
  • 私は相手の反則で息子が試合に勝ったことにがっかりしてます
  • 王様はお姫様の病気を治す薬の在庫が無くて手に入らないことにがっかりしてます

このような「がっかり」の使い方はセーフだと思うんですが、どうでしょう?間違っていますかね?セーフな使い方の特徴としては、がっかりの対象が「人の特徴ではない(イベントの開催日、料理、試合結果、在庫の状況など)」および「自分自身に関する成果」などが含まれると思います。

グレーゾーン(受け取る人による)

これをグレーにカテゴリー分けすることそのこと自体が僕の主観なんですが

  • 私は娘の成績にがっかりしてます
  • 私は妻の作ったコーヒーにがっかりしてます

これらは、対象の事柄が努力によって変わってくるという点では、例えば変えられない身体の特徴に関してがっかりと言う場合に比べてマシですが、その努力の主体になる、この場合は娘や妻、の気持を踏みにじる可能性があるのでかなり危険ですね。ご本人が「いやぁ、失敗した~」とか「全然勉強してなかったからな~」とか、同じ方向を向いているなら大丈夫かもしれないけど、ちょっと危ないと思う。

今回の大臣のがっかり発言騒動に関する私の評価

おそらく、大臣の本心は

  • その選手が重大な病気になったことが原因で大会に参加できなくなってしまうことにがっかりしている

じゃないかと思う。これだとしてもアウトですかね?僕はグレーゾーンよりのセーフゾーンだと思います。がっかりの対象が「大会への不参加」ですから。逆に、大臣の本心が

  • その選手が病気になったことにがっかりしている

だと、世間中が激おこなのは理解できます。好んで病気になったわけではないですから。本人が変えることが出来ない身体の状態に対して「がっかり」の言葉は完全に不適切ゾーンでしょう。

「がっかり」以外にも不適切発言があったらしい

それに関してはこの考察の範囲から除外します。ですが、同じ会見での発言なので、切り離してしまうのも良くないと思います。それも含めての全体としての批判もあるでしょうから。

ただ言えることは、この「がっかり」という言葉は扱いが難しくて、きちんと「何について」がっかりしているのか明確にしないと混乱が生じるようなんで、その混乱を避けるように、この言葉そのものをチョイスしない、またはきちんとブレないように表現すべきだったと思います。このあたりのコミュニケーション能力に、それこそ「がっかり」している人達が多いのかもしれません。

何重ものバイアスを通って自分に届く情報

人が何かを発信する際に、その出発点となる「その人の本心」を知ろうとすべきだというのは全ての人が同意することだと思います。「本心」というのがそこにあって、それを伝える「方法」として言葉(メディア)がある。その本心が、発言者から聞き手(自分)に到達するまでに、ものすごい数のバイアスの影響を受けます。例えば:

  • 発信者の言語のチョイス(英語で言うのと日本語で言うのとではニュアンスが変わる可能性がある)
  • 発信者の語彙のチョイス(使う表現によってニュアンスが変わったり誤解されるリスクが増えたりする)
  • 発信者の時間的制約(ゆっくり話す時間があれば、補足を加えながら発言できる)
  • 発信者の体調(体調によっては、例えば咳き込みながらの発言は、余計なネガティブな感情を聞き手にひきおこすかもしれない)
  • 発信者の発言を伝える伝達者のバイアス(その人を元々嫌いか逆に好きかもしれない)
  • 伝達者の編集バイアス(言葉を全てそのまま伝えるか、今回問題になっているように、どのように「切り取るか」)
  • メディアの変換時に生じるバイアス(音声に含まれていたニュアンス、例えば優しい口調、などが文章情報になった時に欠落する)
  • メディアの伝えるタイミングのバイアス(まったく関係ない環境に生じる事象とのタイミング。地震があったときに地震ものの映画をオススメしてしまうときに生じる感情など)
  • メディアの内容を自分が解釈するバイアス(自分がそのメディアをもともと信頼しているかいないか、が与えるバイアス)
  • メディアの内容を解読するときに生じるバイアス(自分が言葉の意味を誤って理解していたり、誤って読み飛ばしたりして生じるエラー)
  • 発信者に対する自分の固定観念(もともと嫌いなやつが言うことは、悪く解釈しようするバイアス)
  • 他の2次的情報のバイアス(友達や親類の意見から生じるバイアスや、意図的に歪曲した方が都合がいい人・組織の反応を知って生じるバイアス)

挙げるときりがないです。

そのように多くのバイアスがあるので、自分の中に形成される「発信者の本心」らしいものは、本当のところ合っているのかどうか分からないわけです。まぁ80%ぐらいの精度で合ってればいい方かもしれません。特に、技術的な内容とかではなくて、「がっかりした」というような感情を表す表現で、しかも「何について」がっかりしたのか明確に指定されていないような発言が自分に伝わって来た時は、かなり慎重に反応しないといけないなと自分は思うわけです。

「自分の考えをしっかりもとう!」とよく言われますが、それは「バイアスのことを忘れないようにしよう」と言い換えることもできると思います。

まとめ

「がっかり」という言葉をじっくりと考える機会を得ました。かなり危険なワードだと思いますが、使い方に気をつけないといけない言葉だとおもいます。「がっかり」発言に限らず、自分に届く言葉は何十ものバイアスを通ってやってくるので、それに対する反応は慎重にしないとな、と思いました。みんなが激おこな理由は、おそらくはいくらかバイアスに振り回されてしまった部分があるのではないかと想像してますが、ひとそれぞれ受け止め方が異なるのは当然なので断定的にそうだとは言えないなとも感じます。

最後にこの話題でのアスリートの方の病気が快復に向かうことを祈ります。病気は異なりますが、胃がんステージ4の母の治療経験を多少なりとも知っている以上、ある程度過酷な治療を経験するであろうことは想像できますし、10代の娘を持つ親としてもその心情は、多少は想像できます。多くの意見の通り、オリンピックよりもずっと優先順位の高いご自身の健康の回復にご本人も努力されることでしょう。